Al_2O_3/Wナノ複合材料は、数10nmの金属Wがマトリックス粒内に均一に分散し優れた機械的性質を示す。本研究では、この様な高性能アルミナ/金属ナノ複合材料の組織形成過程の解明を目的として、透過型電顕(TEM)中で焼結過程のその場観察を行った。WO_3とγ-Al_2O_3の混合粉末を調製し、これを水素気流中600〜1100℃で還元処理を行なった。X線回折の結果、700℃以上でWO_3のピークは消失し900℃以上で金属Wが生成することが確認された。800℃還元処理粉末のTEMによるエネルギー分析ではWの存在が確認されたが、W粒子の存在は認められず、Wは非晶質で存在していることが示唆された。この粉末を直接加熱ホルダーにセットし、超高真空下のTEM内で加熱を行なった。本研究で用いたγ-Al_2O_3は高温でα-Al_2O_3へと相変態するが、約1000℃以上に加熱するとこの変態が生じると共に、Al_2O_3粉末の粒成長が開始し、形態が針状から等軸状粒子へと変化することが確認された。これに伴い成長したα-Al_2O_3粒子の内部や表面に数〜数10nmと非常に微細なWの析出が確認され、温度上昇と共にW粒子は成長することが確認された。これより、最終的な複合体中のナノW粒子はAl_2O_3のα-β相転移/粒成長に伴って粒内に取り込まれるものと考えられた。 また本実験の過程で、Al_2O_3表面に吸着した有機溶媒が還元過程で炭化し、結晶性グラファイトが生成し、これが析出したナノサイズW粒子を取り囲み、数nmの金属W包含カーボンナノボールを形成することが分かり、その生成過程やボールの特徴的な運動などをVTRに記録することに成功した。カーボンナノボールはナノチューブなどと共に注目される新しい形態の炭素基材料であり、特異な構造から新規機能が期待されるものであが、従来のものは黒鉛の直流アーク法でしか作製されておらず、その生成メカニズムや特性は未知である。本研究ではTEM中でのその場反応を直接観察した最初の例であり、今後の研究の進展が期待される成果である。
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