材料電磁プロセシングの分野では、電流や磁場の印加された状態での凝固現象の解明が急務となっている。また、従来の凝固工学の分野においても、共晶組織や初晶形態に及ぼす電流と磁場の効果については、非常に興味のある研究対象となっている。本研究は、厚さ1mm程度の非常に薄いPb-Sn合金試料を一方向凝固させ、対流の存在しない条件下で電流印加および磁場印加の効果を確認した。電流印加による効果についてはジュール発熱により共晶、初晶とも粗大化し、それは試料内の温度分布が変化し、凝固全面における温度勾配の低下という観点で従来の凝固理論により定性的説明できる。また、固相内の電気伝導度の分布あるいは固相と液層の電気伝導度の相異により凝固全面のミクロ的な温度分布が変化し、凝固組織を変化させることが判明した。特に、共晶組織では、Pb層とSn層の厚さの比が電流印加により変化し、より電気伝導度の高いSn層が肥大化する傾向にある。電流と磁場を同時に印加し、電磁気力を作用させると初晶が傾斜して配向することがわかった。これは対流によるものではなく、電磁気力そのものあるいは電気伝導度の差異によって生じた電磁浮力によるものである。全く同等の電磁気力であっても、電流が大きく磁場が小さい(電磁浮力が大きい)場合にはPb初晶は浮力の方向に傾斜し、電流が小さく磁場が大きい(電磁浮力が小さい)場合には電磁気力の方向に傾斜する。さらに、電磁気力を増加させることにより、初晶の分断が観察された。本研究により、対流を介さない電流および磁場印加の凝固組織に及ぼす効果が明らかになったと同時に、凝固組織制御や傾斜機能材料創製の可能性が示された。
|