五員環状ホスホニウムイリドとエノンの反応は、従来の反応様式には無い連続的なイリドのエノンへのMichael付加及び分子内Witting反応の進行により、シクロヘプテニルジフェニルホスフィンオキシドを生成する。本研究は、本反応の汎用性を検討するため、六、七員環ホスホニウムイリドを用いる八、九員炭素中員環合成への応用、またエンエステルとの反応による中員環エノールエーテル合成について検討した。六員環イリドと種々の不飽和カルボニル化合物の反応を行ったところ、エナ-ル、β、β-二置換エノンからはWitting生成物が得られたが、カルコン、ベンザルアセトン、4-ヘキセン-3-オンの反応からは、シクロオクテン誘導体が38〜47%の収率で生成した。また七員環イリドの反応は、β-n-アルキル置換エノンからは同様な反応が進行し、シクロノネン誘導体を生成したが、β位にフェニル、あるいはイソプロピル基といった嵩高い置換基を有するエノンからは、環化体が得られず七員環イリドの共役付加反応性の低下が観察された。また五員環イリドとエンエステルを用いた同様な反応を検討したところ、上記と同様なイリドの共役付加及び分子内Witting反応が進行し、対応するシクロヘプタノンのエノールエーテル誘導体が一段階で生成することを見い出した。本反応においては、エンエステルの置換基の種類によらず60〜73%の収率で環化体を与え、エノンでは進行しなかったβ、β-二置換エンエステルからも37%の収率で環化体が生成することが明かとなった。以上のように本研究は、環状リンイリドを出発物質とする連続的Michael-分子内Witting反応が、シクロオクテン骨格の構築また官能基として有用なエノールエーテルを含むシクロヘプテン誘導体合成において有用な新規方法論であることを明らかとした。
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