温度ジャンプ法は、物理的エイジングの研究の常套手段であり、本研究でも、まず温度ジャンプが可能な空気恒温槽の開発を行った。得られた恒温槽は、105℃から90℃への温度ドロップ実験において、熱媒である空気の温度を最大10秒程度で変化させることができたが、1℃程度のアンダーシュートが観測された。このアンダーシュートが緩和するのには約1分必要であった。アンダーシュート防止、試料の熱伝導等を考慮し、最大10℃/分の冷却速度が得られると判断した。なお、温度分布は最大0.3℃、等温制御下での安定度は±0.1℃であった。 この恒温槽を用いて、ポリスチレンとポリカーボネートについて測定を行った。このうち、複屈折に関する結果は、本研究で初めて得られたものである。得られた結果をまとめると、 1.ガラス転移温度+10℃から、ガラス転移温度以下の所定の温度まで 一定速度で冷却し、等温条件下で緩和実験を行うと、応力、複屈折のいずれにしても時間-温度換算則は成立するが、移動因子の温度依存性はガラス転移温度以下では、WLF式から逸脱した。この逸脱の始まる温度は、冷却速度の増加とともに上昇した。 2.急冷後、等温で保持し、経過時間の関数として緩和実験を行うと、経過時間とともに、応力、複屈折のいずれの緩和も遅くなった。応力には、時間-経過時間換算則が成立したが、複屈折では、定量性に欠けた。 3.修正応力光学則を用いて応力を二つの成分に分離したところ、いずれの成分に対しても、時間-経過時間換算則が成立すつ見なすことができた。また、高分子の配向によるゴム成分は物理的エイジングの影響をほとんど受けず、一方、ガラス成分は体積緩和と同程度のエイジングの影響を示すことが明らかとなった。
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