船体構造用金属材料の繰返し塑性変形挙動に関する知見を得る目的で、高張力鋼SM50A平滑丸棒試験片を用いて下記の室温下繰返し荷重試験を実施した。 (A)静的降伏応力の80%〜90%の応力振幅の完全両振り正弦波形荷重を破断寿命の約50%回負荷する定荷重試験。 (B)(A)の定振幅完全両振り荷重と、最大応力を両振り振幅の±約10%変化させた荷重とを約1000サイクル毎に交互に繰返す繰返し荷重試験。 上記の試験中の公称応力・公称歪の測定結果を解析し、下記の知見を得た。 (1)古典複合硬化則で応力歪応答を表す場合、応力・歪が定常ヒステリシスループを描く場合には移動硬化のみで表わすべきことは自明であるが、試験(B)のように荷重振幅に変動が生じる場合に等方硬化・移動硬化の寄与分をどのように設定すべきかは不明であった。試験(B)の塑性変形を等方硬化、移動硬化の成分に分離したところ、最大荷重変動時も移動硬化則のみで挙動が表わせることが分かった。 (2)(1)より、本研究で実験した範囲では塑性変形を移動硬化理論で表せることが判明したので、背応力変化を、a)ORNL硬化則、b)べき乗硬化則で近似したときの硬化則パラメータを同定した。その際、ORNL近似での加工硬化係数の決定において、ORNLの提唱する歪制御静的引張り試験結果を用いる方法は荷重制御試験結果の解析にそのまま適用するのは不適当であり、係数はループ形状からその都度決定した方がよいことが分かった。 (3)(2)で決定した硬化則パラメータの荷重履歴の進行に伴う変化を調べ、下記の結果を得た。 i)負荷回数につれて、ORNL近似の降伏曲面半径は減少する。負荷開始直後は変化が急激で、負荷回数につれて変化が緩やかになり、N/Nf=30%でほぼ一定となる。 ii)負荷回数につれて、べき乗近似比例定数Hは減少し、指数nは増加する。負荷開始直後は変化が急激で、負荷回数につれて緩やかになり、N/Nf=30%でほぼ一定となる。 以上により、供試材の高サイクル疲労過程での繰返し塑性変形特性に関する基礎的データを得た。
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