昆虫RNAウイルスであるカイコ細胞質多角体病ウイルス(BmCPV)の寄生及び非寄生昆虫培養細胞における遺伝子発現を研究計画に従って検討し、以下のような知見を得た。 (1)転写および複製レベルの比較 カイコ由来BmN4細胞およびEuxoa scandens由来Es細胞にBmCPVを感染させ、ウイルス二本鎖RNAの検出を行ったところ、いずれの昆虫細胞においても、BmCPVのウイルスRNAが転写および複製されていることが判明した。 (2)翻訳レベルの比較 BmCPV感染BmN4細胞とEs細胞ウエスタンロット分析したところ、前者では、ポリヘドリン遺伝子産物が検出され、後者では検出されず、したがって、非寄主細胞では、ウイルス遺伝子のうち少なくともポリヘドリン遺伝子が翻訳されないことが判明した。 (3)ウイルス増殖の比較 BmCPV感染BmN4細胞とEs細胞をそれぞれ電子顕微鏡観察した結果、前者では、正常なウイルス粒子と多角体の形成が確認されたが、後者では、いずれも観察されず、細胞内に異常な膜状構造物が認められ、非寄主細胞におけるウイルス感染との関係が示唆された。 (4)遺伝子発現調節因子の検索 BmCPVのRNAをウサギ網状赤血球由来のin vitro翻訳系で翻訳させたところ、BmN4細胞では大量に翻訳されるポリヘドリン遺伝子産物の量が他のウイルス遺伝子産物の量に比べ非常に少なかった。したがって、寄主であるカイコ細胞内には、ポリヘドリン遺伝子の翻訳促進因子が存在する可能性が示唆された。 これら本研究の成果は、日米セミナー(平成6年11月、京都工芸繊維大学にて開催)において発表され、その内容は平成7年度中に出版される予定である。
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