ある種の根圏細菌は植物の生育促進や病原菌抑制などの有用活性を持ち、植物根の健全性に深く関与している。この有用活性を十分に発揮するには根への細菌の定着が重要な条件となる。細菌の走化性は、この根定着において重要な特性の一つである。また、走化性誘引物質は根圏細菌の種類によって異なり、細菌が根分泌物中のどの成分に走化性を示すかは根への競争的定着において特に重要である。即ち、根圏定着力の高い細菌は、その根圏環境にもっとも適応した走化性受容体を持つと考えられる。従って、様々な根圏細菌の走化性受容体を解析することによって、根圏生態系における走化性の役割や重要性を明らかにできると考えた。 まず、既知の走化性受容体の情報をもとに、高度に保存された配列部分からプライマーをデザインし、数種の菌株についてPCR増幅を試みた結果、目的の受容体遺伝子の一部と考えられる増幅DNAを得た。そこで、土壌細菌Serratia marcescensについて走化性受容体のPCR断片をクローニングし、シークエンスしたところ2種類の配列が得られた。この断片をプローブとしたS.marcescens染色体とのサザンハイブリダイゼーションからも2種類の受容体遺伝子の存在が示唆された。次に、走化性受容体欠損株を作出するため、特定の走化性受容体遺伝子を破壊するベクターを構築した。pCHR83をもとに作製したプラスミドに上記PCR法により取得したS.marcescensの走化性受容体遺伝子断片をクローニングし、相同組み換えによって走化性受容体遺伝子を破壊した結果、特異的な走化性受容体の欠損株が取得できた。 今後、植物根-土壌系における走化性変異株の行動の変化をモニタリングし、野生株と比較することで走化性の機能を明らかにすることが可能であり、この知見は植物生産における好適な根圏環境の管理法や有用根圏細菌の活用に資することが期待される。
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