1.グルタチオン合成酵素にγグルタミルシステイン依存性ATP加水分解活性があることを見いだした。この活性は、通常本来のグルタチオン合成活性の2%以下に押さえられているものの、活性中心を覆っていると考えられるフレキシブルループを削除することによってその割合が上昇した。すなわち、フレキシブルループは、アシルリン酸中間体とグリシンとの反応を制御していると考えられる。 2.このATP加水分解活性に注目し、反応途中の酵素基質複合体をX線結晶解析で捕捉することを目的として以下の系を構築した。すなわち、caged-ATPと呼ばれる光照射によって外れる保護基を導入されたATPとγグルタミルシステインをグルタチオン合成酵素と共存させて結晶化し、得られた複合体酵素の結晶にフラッシュを照射することで反応を開始直後、結晶を迅速に冷却することによって反応を停止させ、その状態をX線結晶構造解析するものである。 (1)結晶中においてグルタチオン合成酵素によって触媒されるγグルタミルシステイン依存性のATP加水分解反応を、HPLCを用いて定量した。次いで、グルタチオン合成酵素とcaged-ATP及びγグルタミルシステインとの複合体結晶を作成し、フラッシュフォトリシスによってcaged-ATPからATPを放出させた後、20℃にて反応させたところ、結晶状態のグルタチオン合成酵素によって、70時間後に60%のATPがADPに、4日後には、90%のATPがADPに変換されていることが判明した。 (2)反応開始直後と反応終了時の結晶を0℃に冷やすことでほぼ反応を停止させ、その状態のX線回折強度を測定した。その結果、酵素によって加水分解される直前のATPの構造を捉えることに成功した。また、ATPの加水分解にともない166番目と167番目のグリシン残基が大きく構造変化することが観測された。
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