牛乳中の主要なアレルゲンであるβ-ラクトグロブリン(β-Lg)をモデルとして、タンパク質抗原にアミノ酸置換を導入することによって生じる免疫応答の変化を解析した。まず、C57BL/6マウス(B6マウス)における優勢なT細胞抗原決定基である122-129残基を中心とする領域について、B6マウスの脾臓細胞より精製したNHCクラスII分子(I-A^b分子)と、β-Lgの119-133残基に相当するペプチド(p119-133)のアミノ酸置換アナログとの結合性を調べることにより、MHCクラスII分子との結合に重要な残基を同定した。その結果、p119-133の^<126>ProをAla及びPheに置換したペプチドP126A、P126F、^<128>ValをAspに置換したペプチドV128Dは、I-A^b分子との結合性が低下したことより、^<126>Proと^<128>ValがMHCクラスII分子との結合に関与していることが示された。次に、アナログペプチドP126Aを免疫原とした場合のT細胞応答、抗体産生応答を調べたところ、p119-133と比較してどちらの応答も著しく低下していることが明らかとなった。そこで、^<126>ProをAlaに置換したβ-Lg変異体P126Amutを、酵母分泌発現系を用いて作製した。また、対照としてT細胞レセプターとの結合に重要な^<129>Asp残基をAlaに置換した変異体D129Amutも同時に作製した。天然型β-Lgとこれらのβ-Lg変異体をそれぞれアジュバントとともにB6マウスの腹腔内に投与し、その血清中の特異抗体量を調べた。その結果、天然型β-Lg、D129Amutに対しては強い特異抗体産生応答が観察されたのに対し、P126Amutに対してはほとんど特異抗体が検出されず、その免疫原性が大きく低下していることが明らかとなった。本研究により、1アミノ酸残基の置換により食品アレルゲンなどの非自己タンパク質を免疫系による認識から逃れさせ、生体にとって有害な免疫応答を回避できる可能性がひらかれた。
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