食品アレルギーのメカニズム解明および予防・治療法の確立のためには、食品アレルゲンに対する免疫応答を詳細に解析する必要がある。ここで食品タンパク質の場合、消化作用により生成したフラグメントが抗原となることを考慮しなければならない。そこで本研究では牛乳アレルゲンタンパク質αs1-カゼインの一次構造をもとに化学合成したペプチドを経口投与した場合の免疫応答を解析した。 C3H/Heマウスにおいてαs1-カゼインに感作されたT細胞を強く刺激するαs1-カゼイン91-110領域の部分ペプチドを0.5nmol(1.3mg)ずつ計4回経口投与した後、脾臓細胞を抗原存在下で培養し産生されるサイトカインを測定した。その結果インターロイキン-2の産生が認められ、ペプチドの経口投与によりT細胞が感作されうることが示された。 次にペプチドフラグメントをマウスに経口投与した後、αs1-カゼインを免疫しT細胞の抗原特異的増殖応答及び血中の特異抗体産生量を調べた。その結果、あらかじめフラグメント91-110を経口投与した場合αs1-カゼインに対するT細胞増殖反応が抑制されることが示された。このときのサイトカイン産生について検討したところ、インターロイキン-2・インターロイキン-4・インターロイキン-10・γ-インターフェロンの産生が認められ、ペプチドに感作されたT細胞が産生するサイトカインの作用により免疫応答が抑制された可能性が示唆された。一方、血中のαs1-カゼイン特異抗体量は低下していなかった。 本研究の結果から部分ペプチドの経口投与よりアレルゲンタンパク質全体に対する免疫反応が抑制されうることが示された。このようなペプチドフラグメントを選択的に投与することによりアレルギーの予防・治療が可能と期待される。
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