エリスロポエチン(EPO)は、赤血球前駆細胞に特異的に作用して、赤血球への分化と増殖を促進すると信じられてきたが、神経細胞の性質を持つPC12やSN6細胞に機能的なEPO受容体が発現していることを見出した。さらに18日目のラット胎児脳の初代培養を低酸素分圧下で行うことにより、EPOが分泌されることを明らかにした。そこで中枢神経系を構成する細胞群のうちどの細胞がEPOを生産するのかを調べた。その結果、抗グリア繊維性酸性タンパク質抗体に対して陽性を示す細胞(アストロサイト)がEPOを生産していた。これより神経細胞がEPO受容体を発現し、神経細胞をとりまくアストロサイトがEPOを生産していることが判明した。ついで腎臓で生産され血中を流れるEPO(血清EPO)とアストロサイトの生産するEPO(脳EPO)について、性状比較を行った。その結果、脳EPOの方が2倍活性が高く、またレクチンに対する結合性実験より、脳EPOは糖鎖末端のシアル酸含量が血清EPOに比べて少ないことが判明した。シアル酸は、EPOのin vitroの活性発現に阻害的に働くことから、脳EPOは、シアル産をつけないことで活性を高め、パラクライン様式に適応していると考えられた。 次にEPO産生脳細胞培養系を用いてEPO産生を増強する因子の検索を行った。材料はきのこの抽出液や緑茶の各成分の抽出液および生体材料などを用いた。しかし食品由来のEPO産生を増強する因子は発見できなかった。ところが驚いたことにインスリンが、EPOの産生を3倍に増強することが判明した。インスリンの主な作用は、食品の摂取によって上昇したグルコースをグリコーゲンに変換することであり、EPO産生にも作用していることは、食品とEPOについて考える上で大変興味深い現象である。一方肝ガン細胞由来のEPO産生細胞HepG2はインスリンによる効果は見られなかった。よってインスリンの効果は脳特異的であると考えられた。
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