本研究では、曲げ荷重および引っ張り荷重下における凍結マグロの筋肉の破断挙動に与える筋線維の配向角度の影響および冷却温度の影響を明らかにし、さらに、凍結マグロの低温切断が可能となる条件を定量的に明らかにすることを目的とした。 マグロの筋肉を用い、筋線維の配向角度と荷重を加える方向とのなす角を0°〜90°の間で変化させた試験片を作成した。この試験片に対して、曲げおよび引っ張りによる材料試験を-130℃〜-70℃において行なった。また、荷重軸に対して筋線維の角度方向が0°および90°の試験片を同様の温度範囲においてせん断試験を行なうことにより、筋線維間のせん断強度を測定した。次に、筋線維の強度、結合組織の強度および筋線維間のせん断強度を用いて、任意の筋線維の配向角度θにおけるマグロ筋肉の破断強度を予測する数学モデルを構築した。このモデルの特徴は、凍結マグロの筋肉を筋線維と結合組織から成る1方向強化複合材料として取り扱うことができ、筋肉の破断挙動の筋線維配向角度依存性を3つのパラメータ(筋線維の強度、結合組織の強度、筋線維間のせん断強度)で表現できる点にある。 構築した数学モデルを用いて、低温切断が可能となる温度条件および低温切断が可能となる筋線維の配向角度の限界を決定した。その結果、試料の冷却温度は-70℃で十分であること、また、切断面に対する筋線維の配向角度は20度までならば良好な切断面が得られることを予測した。モデルを用いて決定した条件で、実際にマグロの筋肉の低温切断を行なったところ、滑らかな切断面が得られた。以上の結果から、本研究で構築した数学モデルが現実の試料(マグロなど)の操作条件の設定に有効であることが明らかとなった。
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