1.完成した樹木細胞壁中におけるキシランの選択的放射標識 鉢植えのコブシにmyo-イノシトール-[2-^3H]を投与し、植物を約5カ月間生育させた。ある種の多糖は一度堆積したのちに低分子化・分解され再び代謝されることが知られており、この細胞壁多糖の転換は、本実験においては放射標識の選択性の低下を引き起こすことになる。 標識木粉のニトロベンゼン酸化分解物(バニリン、シリンガアルデヒド)および硫酸加水分解物(キシロース、グルコース)の放射能を測定した結果、バニリン、シリンガアルデヒドおよびグルコースにも僅かな放射能が検出されたが、キシロースに高い放射能が認められた。したがって、一度細胞壁に堆積したキシランは、5カ月の代謝期間に再び他の細胞壁成分に転換しないことが分かり、myo-イノシトール-[2-^3H]を投与したのち、植物を長期間生育させることによって、完成した細胞壁中のキシランをほぼ選択的に放射標識することができた。 2.ラジオトレーサー法によるクラフトパルプ化中のキシランの挙動の解明 上の標識木粉をクラフト法で処理し、パルプ化の各段階で得られるパルプおよび蒸解液の放射能を測定した。その結果、パルプ化開始30分後では全キシランの約40%が溶出していることが示された。1時間後では、約70%のキシランが溶出し、この割合は1.5時間後においても変わらなかった。したがって、クラフト蒸解においてキシランの溶出は、蒸解の比較的初期においてほぼ完了することが示された。開始後2、2.5、3.5、4.5および5.5時間後では、蒸解液の放射能が減少し、キシランのパルプ繊維上への再吸着が示唆された。吸着は蒸解開始後比較的速やかに起こることが示され、一度溶出したキシランの約1割がパルプ繊維上に再吸着し、最終的にパルプに存在するキシランの約1/4が再吸着したものであると評価された。
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