研究概要 |
卵巣で産生される一酸化窒素(NO)の排卵過程への役割を明らかにするために、以下の実験を行った。1)雌マウスに、PMSG-hCGによる過排卵を誘起し、hCG投与時に、NO産生物質であるnitroglycerinを経皮的に投与した。しかし、投与後14時間目に卵管膨大部に到達した卵子数は非投与群と有意な差はなかった。2)3週齢雌ラットにPMSG-hCGによる過排卵を誘起し、hCG投与0-12時間後の卵巣のホモジネートの10000xg上清中のNO合成酵素(NOS)活性を、^<14>C-arginineからの^<14>C-citrullineの生成より測定した。卵巣中にはCa^<2+>依存性NOS(type 1,3)活性が存在した(約1.5 pmol/mg protein/min)が、hCG投与直後のNOS活性とhCG投与3-12時間後の活性では有意な差は無かった。Ca^<2+>非依存性(Type 2)NOS活性は、hCG投与0-9時間後まで検出できなかったが、12時間目に僅かながら検出された(0.2 pmol/mg protein/min)。3)3週齢雌ラットの卵巣をコラゲナーゼ消化後、顆粒膜細胞と卵胞膜細胞に分離し、それぞれFSH、LH、PGF_<2α>、IL-1β、TNF-αを添加した199培地で96時間培養し、培養液中の亜硝酸濃度より産生されたNO量を測定した。しかし、いずれもNO産生は僅か(約2 pmol/2x10^5cells/96h)であった。一方、卵巣細胞を分離ずに培養すると、IL-1β区とTNF-α区で顕著なNO産生の増加が見られた(約30 pmol/2x10^5cells/96h)。以上の結果から、卵巣中で産生されるNOが排卵過程に重要な役割を果たしている可能性は低いことが判明した。しかしながら、黄体形成時に黄体内でTNF-αやIL-1βの濃度が増加することが知られており、また本研究から、排卵直前にこれらによって誘導されるtype 2 NOSが卵巣内で僅かに上昇し、さらに卵巣内にはin vitroでこれらのサイトカインよってNOSが顕著に誘導される細胞が存在していることが判明したことから、排卵後の黄体形成には卵巣で産生されるNOが関与している可能性がある。
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