研究概要 |
多糖に新しい機能を付与すべく申請者は今までD-グルコースを繰り返し単位に有する各種多糖にシアノエチル基の導入を試み、また、生成物の物性について研究を行ってきた。本研究では、再生可能な生物資源の一つである多糖としてキチンおよびその脱アセチル化物であるキトサンを採り上げた。既往の研究成果および申請者の過去の研究で得た知見を基に、まず、キチンおよびキトサンのシアノエチル化を行った。シアノエチル基の導入は、赤外分光スペクトル法にて2250cm^<-1>付近のシアノ基の吸収で確認した。 合成したシアノエチル化キチンおよびキトサンの、熱分解性、金属イオン吸着性、誘電性、溶解性をそれぞれ評価しそれぞれの出発物質と比較した。シアノエチル化キトサンのDSC曲線には、525℃に大きな発熱ピークを観測し、シアノエチル化に起因すると考えられた。また、誘導体を、金属イオンを含む酢酸緩衝液中に入れ、金属イオンを吸着させ、溶液部分に残存する未吸着金属イオン濃度を測定したところ、特に、シアノエチル化キトサンはpH6の際に二価の銅イオンに対し大きな吸着量(6.0〜9.6mole/10^5g)を示した。一方キトサンの場合は、未処理の場合および誘導体はそれぞれ0.9〜1.3,1.4〜2.4mole/10^5gであった。またシアノエチル化キトサンの誘電率は、常温で1000Hz付近で20を越す値を示し、セルロースの15などと比較してかなり大きな値であった。キチンの場合、シアノエチル化によってpH5の酢酸緩衝液に対する溶解性が3.44%から40.5%に上昇したのに対し、キトサンは、98.98%から69.70%に減少し、金属イオンを吸着するにつれてさらに溶解性が低下した。 本研究で物性を測定した多糖およびその誘導体のなかで特にシアノエチル化キトサンは、今後の利用について金属捕集剤(凝集沈殿剤)としてもまた高誘電体としても期待される新しい機能を有する誘導体となると考えられた。
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