本研究では、病態ラット(遺伝性高ビリルビン尿症ラット)単離肝細胞の細胞容積調節機構に関与するイオンチャネルの異常を電気生理学的手法のパッチクランプ法を用いて検討することを当初の目的とした。低浸透圧負荷を与えた場合に活性化される塩素イオンチャネル(Cl^-チャネル)電流は、病態ラットの方が有意に小さかった。しかし、調節性収縮(RVD)機構は、病態ラットの場合も正常に機能していたため、目的を変更し、正常ラット肝細胞のCl^-チャネルの調節機構についての研究を行い、以下のような興味深い新知見を得た。 1.多くの細胞では、低浸透圧負荷を与えると、RVD機構が働く。これは、初めにK^+チャネルが開き、それに続きCl^-チャネルが開くことになる。しかし、肝細胞の場合、最初に活性化されるのは、Cl^-チャネルであり、K^+チャネルの寄与はほとんどなかった。このCl^-チャネルは外向き整流作用を示し、チャネルブロッカーのSITSにより阻害された。2.低浸透圧負荷によって活性化されるCI^-チャネルの活動は、アラキドン酸によって顕著に抑制された。また、アラキドン酸代謝酵素阻害剤によっても有意に抑制された。したがってアラキドン酸それ自体が作用しているものと考えられた。3.単離肝細胞のRVDの様子をビデオに撮り、細胞容積の時間的変化を検討した。アラキドン酸は、RVD機構には影響を及ぼさなかったが、低張負荷直後の細胞膨張を有意に抑制した。この結果から、アラキドン酸はCl^-チャネルを直接阻害するのではなく、細胞外からの水の流入を阻害することにより間接的にCl^-チャネルの活動を抑制しているものと考えられた(細胞膨張の程度が、Cl^-チャネルの活動を調節している)。このようなアラキドン酸の調節機構の発見はこれが初めてである。
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