1.腎交感神経活動を指標とした以前の我々の研究は、脳内で産生・放出されるアンギオテンシンII(ANGII)が、吻側延髄腹外側野(RVLM)に作用して、交感神経血圧反射特性を持続的に修飾していることを明らかにした。この知見を基礎として、本研究では、個々のRVLM血管運動ニューロンに対するANGIIの作用を直接解析することによって、ANGIIによる血圧反射修飾作用の発現機序の解明を試みた。 2.RVLMニューロンは、まず、心拍同期性、動脈圧依存性、単シナプス性脊髄投射の有無、等により血管運動ニューロンと非血管運動ニューロンに大別し、更に呼吸同期性の有無により細分し、各々ANGIIに対する作用を検討した。RVLMニューロンの記録および薬物の投与には、油圧マイクロマニピュレーター(購入備品)および電動マイクロインジェクター(購入備品)あるいは電気泳動装置を用いた。 3.非血管運動ニューロンは呼吸同期性をもつニューロンの一部を除いてANGIIに対する感受性を欠く反面、血管運動ニューロンの約3割はANGIIによって自発発火頻度の増加を認めた。ANGIIにより自発発火頻度の増加を認めた血管運動ニューロンは、ニトログリセリン静脈内投与によって引き起こした血圧低下に対する反射性興奮の最大値もANGIIによって上昇した。ANGII感受性およびANGII非感受性ニューロンともに、明らかな局在性は認められず、両者は混在していた。 4.本研究により、RVLMに局所投与したANGIIが、交感神経活動亢進に基づく昇圧作用および交感神経血圧反射修飾作用を引き起こす機序として、RVLM血管運動ニューロンのサブポピュレーションに対するANGIIの直接的な興奮作用の関与が示唆された。
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