研究概要 |
癌細胞のシスプラチン(CDDP)耐性機構の解明を目的とし、卵巣癌細胞株(A2780)とそのCDDP耐性細胞株(A2780DDP)及び大腸癌細胞株(HCT8)とそのCDDP耐性細胞株(HCT8DDP)を用いて、CDDPの細胞外輸送機構を中心に検討し、以下の知見を得た。 1.実験に使用した細胞株では、CDDP耐性細胞株の方が、グルタチオン(GSH)含量が増加していた。 2.細胞を予め、[^3H]標識グリシンを含む培養液で培養し、細胞内で標識[^3H]GSHを合成させてからCDDPを添加した。その後、細胞外へ輸送された[^3H]GSH-CDDP結合体をDowex1カラムで分画し、その放射活性を測定したところ、各々のCDDP耐性細胞株の方が放射活性が高く、GSH-CDDP結合体の輸送能が亢進していることが明らかになった。 3.このGSH-CDDP結合体の輸送系は、ATP依存性であった。 4.GSHと薬剤の結合体の輸送系の基質としてよく知られている1-クロロ-2,4-ジニトロベンゼン(CDNB)とCDDPを同時に細胞に添加し、CDDPの細胞外輸送について検討したところCDNBにより競合阻害を受けることがわかった。GSH-CDDP結合体の輸送系は、我々が明らかにした輸送系(J.Biol.Chem.,1993)と同一であることが判明した。 以上のことから、癌細胞のCDDP耐性の機序のひとつとして、GSH含量の増加とGSH-CDDP結合体の細胞外輸送の亢進が関与していることが明らかになった。 現在、Boardら(FEBS Lett.,1993)により報告されたATP依存性輸送系の阻害剤であるCremophor ELをCDDPと併用することにより、CDDP耐性細胞の細胞障害性が上昇するか否かを検討している。
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