CRK蛋白の信号をRas蛋白に伝えるグアニンヌクレオチド交換因子の同定とその解析を行った。ラット褐色細胞腫PC12においてはCRK蛋白には少なくともニつのRasグアニンヌクレオチド交換因子が結合する事を見出した。即ち、一つはSos蛋白であり、もう一つは、新規のものである。後者のcDNAの全核酸配列決定を行い、本蛋白をC3G(CRK SH3 binding guanine nucleotide releasing protein)と命名した。C3Gはその酵素活性部位はC末側に有り、この部分を酵母細胞で発現されると、酵母のRasグアニンヌクレオチド交換因子であるCDC25を相補し、確かに、C3GがRas活性化因子として働くことを確認した。さらに、本蛋白に対する、ウサギポリクローナル抗体、およびマウスモノクローナル抗体を作製し、生化学的に検索を加えた。C3Gは通常、130および140の二つの移動度をもつ蛋白として検出されるが、これは、異なるATGを使うことによる。また、様々な変異蛋白を用いて解析した結果、C3GはCRKに結合するアミノ酸配列をほぼ中央部に2ヶ所に隣接して有している事が明らかになった。本蛋白をワクチニアウイルスを用いて真核細胞に発現させたが、Rasの活性化は認められなかった。この事は、C3Gが真核細胞においては、Ras近縁の蛋白の活性化因子であり、Rasそのものの活性化因子では無い可能性を示唆しており、現在、C3Gの標的蛋白の同定を進めている。
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