研究概要 |
細胞と細胞の接触による細胞増殖停止(いわゆる接触抑制)機構を明らかにするため、接触抑制の強いFischerラット線維芽細胞由来の正常培養細胞株3Y1より、接触抑制機構に関与する遺伝子の単離を試みた。まず、接触抑制により発現量が増加する候補遺伝子をmRNA差異表示法によりスクリーニングした。その結果得られた複数の候補cDNA断片のうち、接触抑制によりmRNA量が増加することの確認できたクローンにつきさらに解析をすすめた。塩基配列決定とホモロジー検索の結果、そのうち一つは既知の細胞増殖抑制遺伝子であるgas1遺伝子であったが、他のcDNA断片には既知の遺伝子とホモロジーがなかったため、接触抑制により増殖停止した3Y1細胞のcDNAライブラリーよりほぼ全長と思われる、約4kbの11A1 cDNAおよび約2kbの7G2 cDNAを単離した。 7G 2cDNAの全塩基配列を決定し、7G2 cDNAは全長1,795塩基で338アミノ酸からなる蛋白をコード可能なことが明らかとなった。ホモロジー検索の結果、7G2蛋白はラットの3β-hydroxysteroid dehydrogenase(3β-HSD)とアミノ酸レベルで35%のホモロジーを有することが明らかとなった。3β-HSDはステロイドの生合成に関与する酵素であり、ステロイドあるいはステロイド様分子が3Y1細胞の接触阻止機構に関与している可能性を現在検討している。 11A1 cDNAの全塩基配列もほぼ決定したが、既知の遺伝子との有意のホモロジーは認められず、新しい遺伝子と考えられる。また、11A1は3Y1細胞より接触抑制の弱いF2408において細胞と細胞の接触後もmRNA量の増加は認められず両細胞株間の接触抑制の強弱を規定している遺伝子である可能性がある。現在、これらのcDNAを発現ベクターに組み込み3Y1細胞あるいはF2408細胞に導入して細胞増殖抑制効果の有無を検討している。
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