細菌感染時におけるマクロファージ遺伝子の発現機構を解析する目的で、サルモネラ弱毒株と強毒株を用いて解析を行った。初めに、Salmonella Typhimurium SL2965株を親株として、ビルレンスプラスミド脱落株(KA101株)と定常期に発現する遺伝子を支配するシグマ因子rpoSの変異株(KA116株)を作製した。BALB/cマウスにおけるLD_<50>値は、SL2965株が1.0x10^1cells/mouse以下であるのに対し、KA101およびKA116株は5.0x10^4および4.8x10^4cells/mouseであった。 上記S.Typhimurium 3株を用いて、培養マウス腹腔マクロファージが菌を貧食した際のTNF-α、IL-1βのmRNA産生量を経時的に測定した。mRNAは、RT-PCR法によって増幅された遺伝子断片をNIH-Imageで解析することによって定量した。この結果、サイトカインの誘導は弱毒株が強毒株を上回る現象を見いだした。このような現象は、貧食初期の0.5から1時間で起こることがわかった。一方、リポ多糖(LPS)低応答性マウスから得たマクロファージを用いた場合、TNF-αおよびIL-1の産生量は減少した。この結果、サイトカインの誘導には菌のLPSが関与していることが示唆されたので、S.Typhimurium 3株から精製したLPSを用いてマクロファージを刺激したところ、TNF-αおよびIL-1βのmRNA発現量に差はみられなかった。従って、強毒株と弱毒株との間でみられたサイトカイン誘導能の差は、菌がマクロファージに付着してから貧食、消化される過程においての菌体より放出されるLPSの量的な差に起因するものと考えられた。以上の結果、サルモネラは宿主の免疫反応を抑制することにより、その病原性を発揮する可能性が示唆された。
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