これまでに、c-Kitの機能を阻害する抗体c-Kitモノクローナル抗体をマウス胎仔に投与することにより、胎生13日以後の胎仔肝と胎仔骨髄における血液幹細胞の増殖にc-Kitが必須の役割を果たしていることを示した。さらに、胎生12日以前の胎仔肝と卵黄嚢では血液幹細胞はc-Kit依存しないで増殖することも明らかにしてきた。このようなc-Kitの機能に依存しない胎生初期の造血を調節する仕組みを解明するためには、血液幹細胞が発現するc-Kit以外の受容体型チロシンキナーゼの役割を理解する必要がある。胎生期の血液幹細胞が発現する受容体型チロシンキナーゼとしてFlk-2が知られている。Flk-2の分子構造はc-Kitのそれと非常に類似しているため胎生初期造血を調節する分子の重要な候補として挙げられ、その機能の解明が待たれている。本研究では、Flk-2に対する特異的阻害抗体を作製しFlk-2の機能を解析することを目的とした。 flk-2遺伝子産物を細胞表面に発現するミエローマ細胞株を樹立し、この細胞株を特異的に認識する2種類のモノクローナル抗体を作製した(A2F4、A2F10)。同時に、Flk-2のリガンドであるFLT3LのN末端部にヒトc-MycのC末端アミノ酸配列を結合したキメラ蛋白をCOS1細胞に産生させ、これをFlk-2のリガンド結合試験に供した。樹立された抗体のサブクラスはA2F4、A2F10ともにγ2a.χで、約150kDの細胞表面蛋白を免疫沈降させる。Myc-Tagを連結したFLT3Lを用いてフローサイトメトリーによりM1細胞のFLT3L結合試験をおこなったところ、A2F4はFlk-2とFLT3Lの会合を阻害しないがA2F10はこれを阻害することがわかった。このことよりこれらの抗体はFlk-2の細胞外ドメインを認識する抗体であると結論した。 今後、阻害活性を有するA2F10抗体を重点的に用いて、Flk-2のin vivoにおける機能について解析を進める。
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