パプアニューギニアの生態学的立地条件が異なる地域に居住する集団を対象に、生体試料中の微量元素濃度を測定し、日本人を含む先進諸国の集団と比較して(1)必須元素、特に亜鉛の栄養状態の評価、および、(2)汚染元素、特に水銀の曝露レベルの評価を行なった。 1.パプアニューギニア低地に居住し、伝統的な生業活動に依存している集団から収集した血清試料を用い、各種必須微量元素(Na、Mg、P、K、Ca、Fe、Cu、Zn、Se)濃度を測定した。これまで、日本人を対象とした調査で得られた測定結果と比較して特徴的であったのは、亜鉛濃度が低値を示したことで、以前に行なった毛髪分析でも亜鉛が底値を示したこととあわせ、この集団は軽度な亜鉛欠乏状態にあると判断された。また、食物摂取調査の結果から、亜鉛の利用効率の低い植物性食物への依存度が高いことが、摂取量に比して血清中濃度の低いことの原因であると考えられた。更に、同じ集団の中でも、より近代化が進行している村落においては、伝統的な食物から輸入食品への依存度が高まった結果、亜鉛の摂取量自体も低下したことが示された。 2.上記の集団の全血中水銀濃度は、海岸(15ng/ml)あるいは川沿いの村落(17ng/ml)で、魚をほとんど摂取していない内陸の村落(4.8ng/ml)に比べ高い値を示した。更に、魚を多食している湖の周辺に居住する別の集団の毛髪および尿中水銀濃度(21.9μg/g、7.6μg/gクレアチニン)は、内陸部の集団(0.75μg/g、0.48μg/gクレアチニン)に比べ顕著に高かった。尿中水銀濃度は毛髪中濃度と正の相関を示し、また、尿試験紙を用いた尿タンパクの陽性率とも関連がみられた。これらの結果は、工業的な汚染源のない地域に居住し、伝統的な生業活動に依存している集団においても、魚の摂取頻度が高い場合、水銀への曝露レベルはいわゆる先進諸国の集団と比較して小さくないことを示している。
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