ディーゼル粒子の発癌性に及ぼす加齢の影響を観察するために、高齢者で顕著である肺気腫に着目し、実験を行った。実験動物のハムスターの肺に弾性線維融解酵素であるエラスターゼを気管内に投与し、実験的に肺気腫を誘発させた。その後、ディーゼル粒子をハムスターの気管内に投与し、ディーゼル粒子の発癌性を含めた毒性に及ぼす肺気腫の影響を観察した。ディーゼル粒子投与開始より約2年間の観察期間中、担肺気腫ハムスターでは有意な体重増加の抑制が観察され、さらに、ディーゼル粒子を同時に投与した場合にはより著しく体重減少が認められた。このことより肺気腫誘発によりディーゼル粒子の全身性の影響が発現することが示唆された。一方、ディーゼル粒子と発癌物質であるbenzo(a)pyrene[B(a)P]を同時に投与した場合には、高率に呼吸器官の腫瘍発生が観察されたが、肺気腫誘発ハムスターにディーゼル粒子を投与した群およびディーゼル粒子単独投与群でそれぞれ1例の肺腫瘍の発生が観察されたのみであった。呼吸器官の病理組織学的所見から、肺気腫誘発ハムスターにディーゼル粒子を投与した群およびディーゼル粒子+B(a)P群で対照群に比べて肺胞上皮および細気管支上皮の増生の発生率が有意に増加していたまた、細気管支での粘液細胞の増生が対照群を除く実験群で観察され、有意に増加していた。肺胞蛋白症様病変の発生率が肺気腫誘発ハムスターにディーゼル粒子を投与した群では、対照群に比べて有意に増加していた。これらの結果から、ディーゼル粒子の発癌性は認められず、肺気腫誘発ハムスターのディーゼル粒子による発癌性の増強も観察されなかった。
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