1991年ジェフリーズらにより開発されたDIS8座位におけるMVR-PCR法は、ヒトミニサテライトの繰り返し単位内の変異をPCR法を用いて検出し、個人をデジタルコード化して識別する画期的な方法で、膨大なアリル内の変異を明らかにするため、法医学領域でも大きな威力を発揮する個人識別法として非常に注目されている。我々はいち早くその方法を法医資料に応用し、微量な血痕、唾液斑等の斑痕試料や1本の抜去毛からでも十分マッピングできることを報告してきた。しかし、MVR-PCR法(通常法)では、増幅したPCR産物を電気泳動後、サザンブロッティングや放射性標識プローブを用いたハイブリダイゼーションなどの煩雑な操作のため、検査時間が長く、特別な施設が必要となるなど、一般的になじみにくい。そこで、我々は増幅DNAをアガロースゲル電気泳動後、直接エチジウム・ブロマイド染色するタイピング法(迅速検出MVR-PCR法:迅速検出法)の開発を試み、この方法が実際の法医資料へ応用可能かどうか検討した。 PCRサイクル数を増やすなどして開発した迅速検出法と通常法の結果を血縁関係のない健常日本人40名の血液から抽出したゲノムDNAを用いて比較したところ、通常法では、1つのマッピングから少なくとも60コードを判定できるが、迅速検出法では、平均41コードを判定できた。また、迅速検出法を血痕に応用したところ、3ヵ月経過の6名の血痕から抽出したDNAからも平均して39番目のコードまで正確に読むことができた。本法は通常法に比べ検出されるコード数はやや少ないものの、簡便かつ迅速であり信頼できる方法であることがわかり、法医鑑識実務への応用が期待される。
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