アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis 以下ADと略す)は遺伝的素因(アトピー素因)を背景として生ずる特有の皮膚炎である。アトピー素因の遺伝的背景として免疫異常が想定されているが、我々は、本症の発症原因には遺伝的背景の免疫異常に加えて皮膚・粘膜のバリヤ-異常が存在すると考えている。最近ADにおいては1gE応答性に関する異常が第11染色体(11q1.3)と相関することが想定される様になったので、我々はAD患者とその家族においてADの診断基準項目に基づき、病型の有無を判定するのと同時に個々の診断基準項目と11q1.3との連鎖を検討し、以下の結果を得た。 1.Hanifin & Rajka の診断基準項目に基づくアトピー性皮膚炎の診断は患者では100%、家族では39%が基準を満たした。2.11a1.3のプローブとしてpλ MS.51 を用いたRFLP解析を各家族ごとに行った結果、高lgE値と相関するバンドが、6家族中3家族に認められた。3.lgE RAST 10項目について検討したところ、米、カンジダ、スギ、ハウスダスト、ヤケヒョウヒダニ、コナヒョウヒダニの6項目で相関が認められたが、いずれも1ないし2家族と高lgE値の3家族にはおよばなかった。4.表現型解析においては、Hanifin & Rajkaの診断項目のうちバリヤ-異常と関連があると思われる徴候、魚鱗癬/手掌皮紋増強/毛孔性角化症の出現頻度が患者では100%、家族でも89%と高率に認められた。5.DNA解析の結果、バリヤ-異常と関連があると思われる魚鱗癬/手掌皮紋増強/毛孔性角化症の有無と相関を示すものがあったが1家族にとどまった。 以上1から5までの結果から11q1.3と高lgE値の連鎖は否定できないこと、lgEやlgE RASTといったlgE応答性を発現するようなもの以外の表現型との相関をほとんどみないことが示された。表現型解析においてバリヤ-異常の頻度が他に比べて際立って高かったことはADの遺伝的背景としてバリヤ-異常の存在を示唆するものだが、それは11q1.3に規定されるような免疫異常とは連鎖せず、別個に独立したものであろうと考える。
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