我々はこれまでにリポソームを用いて十分量の放射性核種の腫瘍集積に成功している。しかし、この方法では血流中にも放射性核種が残存するため投与後短時間での腫瘍描画は難しい。またβ線放出核種を封入して核医学治療へ応用する際の妨げでもある。そこで本課題では血中残存放射活性の能動的除去法の開発、すなわち何らかの“引金"で血流中のリポソームを破壊もしくは透過性を増大させ、封入核種の放出と引続いての腎排泄の誘起を試みた。“引金"として以下の3項目を検討した。 1.ホスホリパーゼA_2(PLA_2):ブタ膵臓由来PLA_2あるいは蛇毒PLA_2と種々の組成のリポソームをin vitroでインキュベーションし、リポソームから放出される放射活性を測定した。PLA_2の添加量と反応時間に応じた放射活性の放出が観察されたが、短時間にほぼ完全な放出を起こさせるには多量のPLA_2を必要とした。 2.ポリミキシン:脂質二分子膜の透過性を高進させる抗菌性ペプチドの一種であるポリミキシンにつき、上記と同様の検討を行った。ホスファチジルグリセロールを添加して膜に負電荷を持たせたリポソームに対して、lmM濃度で短時間にほぼ完全な放出を引き起こした。しかしながら、負電荷リポソームは生体に投与した場合、細網内皮系に取り込まれやすく、結果として腫瘍到達量が減少することが明らかとなった。 3.A23187:イオノフォアであるA23187をリポソーム膜に埋めこみ、これを通じてリポソーム内に封入された^<111>In^<3+>を外へ引き出すことを試みた。A23187に親和性の高いMn^<2+>やCa^<2+>とのインキュベーションにより^<111>In^<3+>の放出が観察された。A23187の埋めこみにより封入核種の自然漏出が見られるなど現時点では問題も多いが、この方法は生体への影響が上記1、2よりも低いと考えられることから、さらなる検討を予定している。
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