高圧送電線周辺住民への磁場の影響が問題とされるようになって、約20年が経過している。この間に、欧米諸国では数多くの研究成果が発表されているが、疫学的手法等が問題となり、統一した知見を出すには至っていない。我が国では、一般公衆への影響を調査した報告は無く、住民の不安感を払拭するためにも詳細な調査が望まれている。 今回の研究では、まず、高圧送電線直下の磁場強度を把握するため、三次元磁束計を用いた測定を実施した。現在発表されている世界的な磁場の基準値のうち、最も厳しいとされる、国際放射線防護協会国際非電離放射線委員会(IRPA/INIRC)が1989年に発表した、商用周波数での暫定指針では、公衆曝露限界は1.0×10^<-4>T(Tesla)とされている。我が国の高圧送電線には500、275、154kVの三種類の規格があるが、各々2.1、1.1、1.0×10^<-4>Tと、僅かながら基準を越える値も存在した(同指針の職業人曝露限界は5.0×10^<-4>)。 次に、東海三県下の高圧送電線の敷設状況(送電線地図)をもとにして、最も送電線の影響を受けていると思われる愛知県三河地区の2町村(A町、B村)を選択し、1989年から1992年の間に死亡した住民の性別、死亡年齢、死因を調査し、愛知県及び全国集計と比較検討した。この結果、悪性新生物が死因に影響を及ぼしていたと考えられた者の割合は、粗死亡率ではやや全国統計を上回っていたが、訂正死亡率では、いずれの年においても2町村とも、はるかに下回る値であった。臓器別死亡順位では、いずれも胃癌が一位であったが、A町女性は膵癌割合が高く、B村は、男性の肝癌女性の乳癌が多いなど、若干全国統計とは異なっていた。 悪性腫瘍の発生に影響を及ぼす因子は非常に多いため、このバイアスを打ち消すためにも同様の調査を多地区で実施する必要があると思われる。また、腫瘍の発生頻度を見るため、高圧送電線が通過している地区と、通過していない地区との間の悪性腫瘍発生率を、愛知県尾張地区の住民検診の結果を元に調査しており、統計処理が終わり次第、今回の調査結果と合わせて発表予定である。
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