研究概要 |
フェンサイクリジン(l-(l-phenylcyclohexyl)piperidine;PCP)は臨床的に精神分裂病に類似した多彩な精神症状を惹起することが知られているが、PCPの精神異常惹起作用の形態学的基盤に関しては十分に検索されていない。本研究は、PCP投与ラット脳の超微形態について検索して精神分裂病様症状が出現する組織病理学的基盤について解明しようとするものである。 実験動物として9週齢のSprague-Dawley系雄性ラットを用い、生理食塩水に溶解した10mg/kgのPCPを単回あるいは1日1回、連日4日間反復投与(腹腔内注射)した。また、生理食塩水のみを同様に腹腔内注射したラットを対照群として、各群のラットを最終投与の4〜12時間後にグルタールアルデヒドによって灌流固定した。脳を取り出して後部帯状回皮質から組織片を切り出し、型通りにエボン包埋した。1-μm切片をトルイジン・ブルー染色して光顕的に検索し、超薄切片をウラン・鉛二重染色して電顕的に検索した。 PCP投与ラットでは、投与直後から3〜4時間にわたって運動失調、移所運動量増加および常同行動(臭いかぎ、首振り、回転運動などを繰り返す)が認められた。PCP投与ラットの後部帯状回皮質を光顕的に観察すると、胞体内に1〜数個の空胞状構造を有する神経細胞が認められた。同部を電顕的に観察すると、ミトコンドリアや小胞体が拡大・膨化して空胞状構造を形成していた。この変化は、PCP単回投与ラットよりも反復投与ラットにおいて高度であった。 PCP投与ラットの帯状回皮質における神経細胞の空胞状変化のメカニズムは不明だが、精神分裂病死後脳の検索においても帯状回の組織変化が報告されており(Benens ら,1987)、本研究の結果は、精神分裂病様症状発現の形態学的基盤を考察する上で興味深い。
|