(実験1)ラット前頭葉皮質、扁桃体、線条体の細胞外lactate濃度に対するフットショックストレス(0.5mA、30秒毎に5秒間:総刺激時間20分間)負荷の影響について、脳内微小透析法を用いて検討した。その結果、フットショックストレスによりいずれの部位でも細胞外lactate濃度は基礎値の140-150%まで上昇した。コミュニケーションボックスを用いた心理的ストレス(20分間)負荷では細胞外lactate濃度は、いずれの部位でも115-120%まで上昇した。これらのことから細胞外lactate濃度は軽度のストレス負荷によっても変動し脳内エネルギー代謝の鋭敏な指標になる可能性が示唆された。前頭葉皮質、扁桃体と線条体では投射するドバミン神経の性質が異なり、前者の方がストレスに対してより感受性が高いと考えられているが、今回の結果からストレス負荷による細胞外lactate濃度の変化は、ノルアドレナリンやセロトニン系神経活動を含めて反映しているものと考えられた。 (実験2)ラット前頭葉皮質、側坐核、線条体の細胞外glucose濃度および細胞外lactate濃度に対する抗精神病薬(haloperidol、sulpiride)の効果について、同様に検討した。その結果、haloperidol(1mg/kg、s.c.)投与は細胞外glucose濃度を3部位とも変化させず、細胞外lactate濃度を線条体でのみ上昇させた。sulpiride(100mg/kg、s.c.)投与は細胞外glucose濃度を3部位全部で低下させ、細胞外lactate濃度を線条体のみで上昇させた。これらのことから抗精神病薬の脳内エネルギー代謝に与える影響は、その薬理学的性質の違いやドパミン神経系の支配領域によって異なることが示唆された。
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