研究概要 |
我々は、加齢が抗うつ薬の血中濃度に与える影響を検討するために、三環系抗うつ薬イミプラミンあるいはクロミプラミンを、2週間以上に亘って定期的に服用している患者に研究の同意を得た後、最終服用後2-3時間に於いて未変化体およびその活性代謝物であるデジプラミン、デスメチルクロミプラミンの血中濃度を測定した。その結果を高齢者群(60歳以上)と対照群(50歳未満)に分け、統計処理を行った。薬物濃度の定量は高速液体クロマトグラフィーを用い、検出は波長210nm紫外部吸収装置で行った。薬物動態の指標としてP-D比(plasma level dose ratio,ng/ml/mg;血漿中濃度を1日投与量で除した値)を用いた。 その結果、イミプラミンに関しては、対照群(7人)の場合、その定常状態に於けるP-D比の平均値は、イミプラミン1.43±0.34,デジプラミン0.62±0.22であった。一方、高齢者群(7人)では、そのP-D比の平均値はイミプラミン4.62×0.76,デジプラミン3.02±0.90で、対照群と比較して有意に高値を示した。クロミプラミン投与時に於いても、イミプラミン投与時の場合と同様に、高齢者群が有意に対照群と比較して高いP-D比を示したが、高齢者群の症例数が少なく、今後さらに同様の研究を続ける予定である。また、イミプラミン(30mg/day)を6ヶ月以上に亘って経口投与されている高齢患者2例における血中イミプラミンとデジプラミン濃度を、投与1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月に於いて測定した結果、6ヶ月の長期投与に於いて血中濃度の著しい変動は認められなかった。 以上より、60歳以上の高齢者群の場合、比較的少量の抗うつ薬の投与によって、従来報告されている治療有効血中濃度に達することが示唆され、身体的な合併症を認めない高齢者では長期投与による過剰な蓄積は生じ難いことが推測された。
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