研究概要 |
慢性骨髄性白血病(chronic myelocytic leukemia,CML)は多能性幹細胞の腫瘍化と考えられ、慢性期は症状に乏しいが急性転化をおこすと予後はきわめて不良となる。近年癌抑制遺伝子の異常が多くの腫瘍で報告され、その発症や進展に関与していると考えられている。CMLにおいては、慢性期から急性転化の過程でp53遺伝子の異常が認められ、急性転化への関与が示唆されている。また巨核芽球性の急性転化ではRB蛋白質の異常も報告されている。WT1遺伝子はWilms腫瘍における癌抑制遺伝子として単離され、近年造血系の細胞、特に骨髄系の細胞で発現が認められているが、これまでのところ造血器腫瘍ではWT1遺伝子の変異は明らかとなっていない。本研究はCMLにおけるWT1遺伝子の異常を経時的に検索し、この異常が急性転化への移行の過程にどのように関与しているか、p53遺伝子の変異との関係はどうかを明らかにすることを目的とする。 CML 12例(1例でp53遺伝子の変異を認めている)、MDSおよびovert AML 24例の骨髄または末梢血から単核細胞を分離しDNAを抽出した。CMLの一部では慢性期と急性転化と調べた。このDNAを鋳型として、これまでにWilms腫瘍において変異が報告されているWT1遺伝子の4つのzinc finger領域をPCR法を用いて増幅した。PCR-SSCP解析によりWT1遺伝子を解析した結果、CMLでは泳動度の異常は明らかでなかったが、overt AML 1例で泳動度の異常が検出された。この症例のgenomic DNAから泳動度の異常のみられた領域をPCR法を用いて増幅し、塩基配列の解析を行なった結果missense mutationを認めた。CMLではWT1遺伝子の変異はまれと考えられるが、MDSの一部の症例ではWT1遺伝子の異常が、その発症または進展の過程に関与している可能性が示唆された。
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