本研究の目的は、生体制御システムとして神経系、内分泌系、免疫系は相互に関連しているという見地に立ち、麻酔及び手術侵襲時の神経-内分泌-免疫系トライアングル相関について特に免疫学的立場から解明することであった。 平成5年度科学研究実績によって、胃亜全摘術での全身麻酔では1)単なる前身麻酔よりも硬膜外麻酔併用麻酔法の方が手術侵襲に対してstress freeであること、2)手術侵襲に対して神経系、内分泌系、免疫系は三位一体となって変動することが既に示唆されていた。そこで今回はさらに、癌患者と非癌患者の免疫応答の差異に関する研究を行った。麻酔法は何れも「全身麻酔+硬膜外麻酔併用」とし、手術による疼痛刺激の影響をPerimed社製レーザードップラー血流量計にて測定した。併せて手術中および手術後のOKT4/OKT8比とnatural killer細胞活性およびinterleukin-1 receptor antagonistとTNF binding protein濃度を測定した。 その結果、手術による疼痛刺激の影響に明らかな差は見られなかったが、細胞性免疫の指標であるOKT4/OKT8比とnatural killer細胞活性については癌患者群では手術中から有意に抑制が見られ、interleukin-1 receptor antagonistとTNF binding protein濃度については手術後にやはり癌患者群で有意な上昇が見られた。以上から、手術時には癌患者では非癌患者に比べて免疫応答が極めて早期から抑制されている可能性が示唆された。
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