IV型コラーゲン7SはRIA2抗体法を、ラミニン濃度はEIA法を用いて測定した。血清IV型コラーゲン7S濃度はいずれの癌患者においても高値を示さず、転移の有無による有意差は認められなかった。この結果は、先の報告で述べたとおりであり、更に症例数を増やしても同じ結果となった。本来基底膜を構成する主成分であるIV型コラーゲン7Sが、癌の浸潤及び転移の過程で基底膜の破壊によって血中に分泌されることは容易に予測されたがこの結果からはその可能性は低いと思われた。癌の転移、特に血行性転移に関しては、細胞表面に存在する別の接着分子の関与の有無を調べる必要があると思われた。 血清ラミニン濃度は腎細胞癌、膀胱癌、前立腺癌ともに高値を示す症例が認められた。先の報告では特に膀胱癌でその血清濃度の特異性があり、転移の指標となる可能性が示唆されたが、今回の検討では明らかな有意差は認められなかった。腎細胞癌では血清濃度は転移巣を有する群で高値を示したものの、こちらも先の報告で示したほど明らかに全例が高値を示してはいなかった。前立腺癌はほとんど傾向がつかめなかった。 各々の癌組織の免疫組織学的染色では、IV型コラーゲン染色を行った。腎細胞癌では尿細管基底膜及び血管基底膜に沿って染色傾向が強く、膀胱癌では基底膜のみに強く染色された。前立腺癌においては他の2種類の癌に比べると、染色態度は少なく、わずかに血管周囲に染色されるのみであった。組織内濃度に関しては、これらの細胞外基質そのものが正常細胞内でも常に産生されており、腫瘍組織内にもそれが反映され純粋な濃度として表現することが困難であるため測定できなかった。 今後癌の浸潤、転移のメカニズムに関しては更に別の接着分子に着目してその局在や性質を検討することがより有用と考えられた。
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