研究概要 |
われわれはこれまで妊娠時のインスリン抵抗性の機序を明らかにするために,その感受性組織である骨格筋や脂肪細胞を用いてインスリンの作用機序を中心に検討し,その結果妊娠中のインスリン抵抗性はpost-receptorレベルの変化により生じることを明らかにした.今回われわれはインスリン作用の中でもその最終ステップと考えられる糖輸送担体のうちGlucose Transporter 4(以下GLUT4と略)に着目し,ラット骨格筋および脂肪組織の妊娠・授乳期間におけるGLUT4遺伝子発現の変化を検討し以下の成果を得た. ラット骨格筋のGLUT4mRNAレベルは妊娠・授乳期において有意な変化を認めなかったのに対し,脂肪組織においては妊娠の経過とともにその発現が増加し(妊娠15日で休止期の約4倍),妊娠20日にその発現の低下を認めた.さらに授乳期においては産後5日に最も高い発現を示し,その後低下した.以上の結果より,GLUT4遺伝子発現が妊娠時の母体糖代謝の特徴である妊娠初期から中期にかけての脂肪組織へのエネルギー貯蔵および妊娠末期におけるエネルギー放出に関与することが示唆された.また妊娠時のインスリン抵抗性には骨格筋におけるGLUT4遺伝子発現は直接関与していない可能性が示唆された。 【今後の計画】現在GLUT4の蛋白発現およびその活性に関する検討も行っており,その結果が出た時点で論文発表を予定している。今後さらにGLUT4遺伝子の調節因子の検討も合わせて研究を続ける予定である。
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