研究概要 |
霊長類は原猿から進化し,中南米に分布する新世界ザルとアジア,アフリカに分布する旧世界ザルとに大別されており,それぞれ異なった進化をとげたものと考えられている。そこで,新世界ザルであるリスザルと旧世界ザルであるマカク(アカケザル)を用い,神経ペプチドのsubstance-P(SP),calcitonin gene-related peptide(CGRP)及びカルシウム結合蛋白のひとつであるcalbindinの分析について免疫組織化学的に検討し,霊長類の末梢前庭器におけるこれらの物質の種差について比較検討した。 SP陽性線維はマカク,リスザルともに半規管膨大部,耳右器平衡斑の辺縁部の感覚細胞下部と感覚細胞周囲に認められ,末梢前庭器におけるSPの分布は両者間に差異は認められなかった。CGRPについてはマカクの半規管膨大部において,有毛細胞下部に点状のCGRP陽性反応が豊富に認められたのに比し,リルザルにおいては,半規管膨大部および耳右器平衡斑においてCGRP陽性反応は認めることができなかった。calbindinはリスザルの末梢前庭器で,中心部から辺縁部にかけcalbindin陽性の有毛細胞が大部分を占めていたが,マカクはcalbindin陽性の有毛細胞とcalbindin弱陽性るいは陰性の細胞が中心部から辺縁部まで混在しており,calbindin陽性細胞の出現頻度について差が認められた。 ヒトにおけるこれらの物質の分布の報告と今回の結果を比較すると,ヒトにおける分布は,新世界ザルのリルザルよりも旧世界ザルのマカクにきわめて良く類似している。またヒトおよび類人猿の祖先は初期の旧世界ザルから進化したものと考えられている。我々は以前より,末梢前庭器における神経活性物質の種差は,進化あるいはその動物種のおかれている環境と関連するものと考えてきたが,今回の霊長類における種差の結果は,霊長類における種の進化といった側面から考えても非常に興味深いものと思われた。
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