テガフ-ルは、5-fluorouracil(5-FU)の誘導体であり、頭頚部腫瘍をはじめ各科領域で使用されている経口抗腫瘍剤であり、長期間投与されることの多い薬剤である。最近テガフ-ルの長期投与に起因すると思われる嗅覚・味覚障害を含む感覚器障害の報告が増加している。われわれは以前にテガフ-ル嗅覚障害患者の嗅上皮生検を行い、その観察結果から病態は嗅上皮の変性、特に嗅細胞の消失によるものであることを明かにすると同時に動物実験においてテガフ-ル短期投与が嗅上皮にどの様な影響を与えるかをBromodeoxyuridine(BrdU)を指標とする免疫組織化学的方法で検討した。その結果ヒト嗅上皮でみられた様な強い形態的変化はみられなかったものの、細胞分裂周期のS期細胞に取り込まれるBrdUはテガフ-ルの量依存的に抑制されていることを確認した。 今回われわれはテガフ-ルを動物に長期間投与し、ヒトと同じ条件を作成してはたしてヒト嗅上皮でみられたような形態的変化が生ずるか否か検討した。その結果嗅上皮では分裂細胞が極端に抑制されており、短期間投与で認められた嗅上皮内分裂細胞の抑制が長期間継続していることが明かとなった。また嗅細胞の数の減少、嗅上皮の非薄化、粘液層の変化も認められた。しかしヒト嗅上皮でみられた強い形態的変化は認められず、嗅細胞の減少も嗅上皮内分裂細胞の継続的で強い抑制と比較すると軽度なものであった。また嗅細胞の変化を特に嗅細胞のcell cycleや機能に深く関わるCa結合蛋白の一種であるCalbindinを指標として検討した結果、非投与群に比べて投与群では抗Calbindin抗体に反応する細胞数の多いことが分かった。
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