研究概要 |
発達加齢時及び嗅神経切断,嗅球除去後の再生時における嗅覚伝導路でのNGFファミリーの受容体の発現を,高親和性受容体をコードしているtrkグループの遺伝子産物(trk,trkB,trkC)に対する抗体を用いて免疫組織化学的に検討した.発達加齢過程においては,trkの発現を全期間を通じて嗅細胞,嗅神経線維,嗅球糸球体層に認め,特に嗅細胞では胎生16〜18日目に,嗅球では生後10日目に強く認めた.trkB及びtrkCに関しては正常発達及び加齢過程において発現は認めなかった.嗅糸切断及び嗅球嗅除去後の発現に関しては,trkは障害7日後から嗅細胞に発現したが,嗅糸切断例では切断21日後には正常と変わらぬまでに減少したのに対して,嗅球除去例では障害後長期間発現の増加が持続した.また,嗅球においては嗅糸切断例で切断21日後から発現を認めたのに対し,嗅球除去例では発現を認めなかった.また,trkB及びtrkCに関しては障害後一過性に嗅神経線維に発現を認めるのみであった. 以上の結果から,嗅細胞の発達,成熟ならびに再生にはNGFが重要な役割を演じていることが推察された.また,従来嗅球にNGFが豊富に存在することが知られており,嗅細胞の再生に影響を及ぼすものと考えられていたが,今回の実験結果から,嗅細胞の再生に関するNGFは嗅細胞あるいは嗅粘膜レベルで産生されている可能性が示唆された. 次に,嗅球及び嗅粘膜にNGFを投与する実験を行った.投与方法としては微小浸透圧ポンプ及び脳内注入装置(いずれもalzet社製)を用いて3日間にわたり持続注入を行った.その結果に関しては現在,まだ充分な結果が得られておらず,検討中である.
|