障害をうけた聴覚機能の回復には、内耳有毛細胞の再生とシナプスの形成という形態的な回復に加え、神経伝達の機能回復として、神経伝達物質の産生は不可欠である。強大音響負荷により障害をうけた聴器感覚上皮の、再生に於ける神経伝達物質局在の経時的変化を検討することにより、機能回復の可能性を検討した。負荷後2日目の鶏に強大音響刺激を与え、聴覚器官であるラゲナ感覚上皮に障害を与えた。音響刺激負荷前及び負荷後経時的にラゲナを摘出し、その形態学的変化を観察すると共に、蝸牛一次求心神経における神経伝達物質であるグルタミン酸、アスパラギン酸の局在について観察した。音響刺激後7日目以降の感覚上皮においては、再生された有毛細胞が観察され、透過型電子顕微鏡による観察では神経終末とのシナプス結合を認めた。免疫組織化学的検討では、再生された感覚上皮内の基底膜近くに抗グルタミン酸、抗アスパラギン酸陽性反応が認められた。このことは強大音響負荷後の内有毛細胞回復は形態学的回復のみならず、機能的にも回復が起こることを示唆するものと考えられた。しかし、抗グルタミン酸、抗アスパラギン酸に対する陽性反応の程度については負荷後同一日数の組織においても、必ずしも一定とはならなかった。このため、神経伝達物質を指標とした回復の程度、その回復過程については、更に組織の固定条件、抗体反応の条件等、組織化学法の条件を再考し、現在検討を行っている。
|