研究概要 |
ヒト眼表面上皮最表層に位置するGlycocalyx層を構成する成分に対するモノクローナル抗体(H185抗体)が作成された。この抗体の結合は角膜上皮,結膜上皮を含めた全ての眼表面上皮の最表層細胞のapical側の細胞膜で最も強く結合し,電子顕微鏡でみると角結膜上皮最表層のmicrovilliの位置に認められ,Glycocalyx層の位置に一致していた。Western blottingによる生化学的検討では,この抗体が認識する抗原(H185抗原)は205kD以上の高分子量であり、高度に糖鎖付加された糖タンパクであることが明らかになった。これらの抗体の結合はperiodateで前処理するとImmunoblotさらに角結膜上皮の凍結切片でも濃度勾配に従い減少,消失したことより,この抗体のepitopeは糖タンパクH185抗原の糖鎖部位であることが判明した。さらにN-glycanaseで処理するとImmunoblotおよび角結膜凍結切片ではH185抗体の結合は影響は無かったが,O-glycanaseではH185抗体の結合は消失したことから,糖タンパクH185抗原はコアタンパクに糖鎖がO-結合していることが判明した。以上の結果は,このH185抗原はムチンであることを示している。 臨床的には,正常ではこのヒト眼表面上皮のGlycocalyx層で表現されるムチンと考えられるこのH185抗原は眼表面上皮で細胞全体に表現されていたが,ドライアイ患者ではその表現が著明に減少あるいは消失していた。また,上輪部角結膜炎患者では上輪部の結膜が角化するが,その角化細胞でもやはりこのH185抗原の表現が低下していた。ドライアイでもこのH185抗原が消失している細胞は角化を示していたことから,角化細胞ではGlycocalyx層に表現されるムチン表現は低下していることが明らかとなった。
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