本研究では、正常胎生裂閉鎖が進行する部位に核の変性像が観察された。この核の変性像が胎生裂縁での基底膜の消失と密接に関与していると考えた。正常胎生裂閉鎖では、胎生裂縁への外板の陥入、同部での基底膜の消失ならびに内反した外板細胞の核の変性などの過程が重要な役割を果たしていると考えた。Ochratoxin Aで神経堤由来の間葉細胞に障害を与えることにより生じる胎生裂閉鎖不全マウスでは、上述した組織変化の過程は観察されなかった。すなわち、胎生裂閉鎖不全の成立は胎生裂縁に介在する異常な間葉細胞が胎生裂縁の基底膜に何らかの変化を生じさせたことに起因すると推定した。すなわち、ochratoxin Aにより成立した外脳症マウスでは、胎生裂縁に介在する間葉細胞が障害されることにより胎生裂閉鎖不全が成立すると考えられる。 GAG分子種のなかでヘパラン硫酸(HS)は、細胞が隣接する細胞や細胞間マトリックスと接着する際接着部に動員され、その糖鎖部分により他の多くの接着分子と強く結合し、細胞接着に促進的に作用していることが知られている。一方、コンドロイチン硫酸(CHS)異性体は、細胞や組織の接着反応に阻害的に作用する特異な生物活性を賦与された物質と考えられている。ヘパラン硫酸の生物学的機能および基底膜においてそれが主要な構成要素であることから考えて、この研究で得られた正常胎生裂閉鎖と閉鎖不全の胎生裂縁基底膜におけるヘパラン硫酸の量的差は、胎生裂が閉鎖するか否かと密接に関与している可能性が示唆された。また、コンドロイチン硫酸異性体の生理学的作用と今回観察された正常胎生裂閉鎖および閉鎖不全の胎生裂縁基底膜におけるコンドロイチン硫酸異性体の量的差を考慮すると、同分子種が胎生裂閉鎖不全の成立に際して胎生裂縁で接着阻害の役割を果たしている可能性がある。
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