家兎眼の硝子体中にフィブリン接着剤を0.2ml注入し細隙灯顕微鏡および倒像鏡にて、前房の炎症反応および硝子体と眼底を観察した。術翌日、前房には僅かに炎症細胞が認められたが、4日以降は消退した。フィブリン析出や著明な結膜充血、毛様充血、角膜浮腫、白内障などは特に観察されなかった。 硝子体中に注入した接着剤は注入後より吸収傾向にあり、10日から2週間で観察されなくなった。 実験的網膜裂孔作製眼では、網膜裂孔縁は硝子体側に立ち上がり周囲には限局性の網膜剥離が観察された。また、裂孔縁が翻転し、拡大傾向を認めるものもあった。空気置換眼やSF_6ガンタンポナ-デ眼においても同様の結果が得られた。 フィブリン接着剤使用眼では、裂孔縁は網膜色素上皮に接し、立ち上がり現象は認められなかった。また裂孔縁から裂孔底に向かって膜状組織を認めるものもあった。全例で裂孔周囲の網膜剥離は発症せず、裂孔の拡大傾向も認められなかった。 光顕観察において、フィブリン接着剤注入眼では、接着剤の周囲にリンパ球やマクロファージ様の細胞が少数認められた。接着剤の吸収後はこれらの炎症細胞は検出されなかった。また、全経過を通じて、網膜には異常所見は観察されなかった。 実験的網膜裂孔縁作製眼では裂孔縁および剥離した網膜下に網膜色素上皮由来と思われる円形の色素細胞が少数認められた。 接着剤使用眼では、裂孔縁は網膜色素上皮層に接しており、接着剤周囲に円形の色素細胞や色素を有しないマクロファージ様の細胞が少数認められた。 以上の結果より、フィブリン接着剤の眼内使用における安全性と、実験的網膜裂孔の閉鎖効果が確認され、フィブリン接着剤の網膜剥離治療に対する有効性が示唆された。
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