癌抑制遺伝子p53の遺伝子産物は野生型、変異型共に、他の転写因子と相互作用し種々のプロモーターの転写活性を正または負に制御する転写制御因子である。 我々の研究室ではヒト口腔扁平上皮癌(SCC)より分離された13種類の異なる変異p53遺伝子を用いて、誘導的発現をする熱ショック蛋白質HSP70プロモーターに対する転写活性化能について解析し、野生型p53がHSP70プロモーターの転写を著しく抑制する一方、変異型p53は1〜7倍転写を活性化すること及び、その転写活性化能と初代ラット胎児線維芽細胞(REF)のトランスフォーム能に正の相関関係があることを明らかにしていた。 そこでトランスフォーム能の高い変異型p53によるHSP70プロモーターの転写活性化機構を解析するため、種々の長さにHSP70プロモーターを欠失させたCATプラスミドを作成し、CATアッセイを行った。この結果、熱ショック誘導を司るプロモーター領域の熱ショックエレメント(HSE)がこれらトランスフォーム能の高い変異型p53に強く応答した。さらに、HSEに変異を導入し、熱ショック因子(HSF)の結合を不可能にした場合、変異型p53による転写活性化も消失した。従って、変異型p53によるHSP70プロモーターの転写活性化にはHSFのHSEへの結合が必要とされることが示唆された。以上から、トランスフォーム能の高い変異型p53はHSE-HSFを介して、何らかの相互作用によりHSP70の発現を活性化していると示唆される。 HSP70は熱や腫瘍など様々なストレスに応答して誘導されることから、トランスフォーム能の変異型p53によるHSP70の転写活性化は、異常なp53蛋白質に対するストレス応答の一種とも考えられる。
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