血管内皮細胞層を用いたin vitroで癌細胞の浸潤能を検定できる系で、ポリアミン合成阻害剤を用い、癌浸潤とポリアミン類との関連性を追求してきた。その結果細胞内プトレッシンレベルの維持が癌浸潤の重要な役割を担っていることを明らかにしてきた。そこで、本研究は癌細胞内のプトレッシンがどの浸潤過程に関与しているかを調べるため、細胞骨格の最構築に関わっている細胞内カルシウムイオン濃度とプトレッシンとの関連性を追及した。 侵潤過程における細胞内のカルシウムイオン濃度の経時変化を、ステージ走査型レーザーサイトメータを用いた画像解析法で測定したところ、無処理細胞の場合、接着直後より浸潤しかかった細胞の方がカルシウムイオン濃度が高くなり、浸潤終了時にはほぼ元のレベルにまで戻ったが、ポリアミン合成の律速酵素であるオルニチン脱炭素酵素の阻害剤α-ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)にて処理した細胞では各過程で殆ど変化が見られなかった。DFMO処理細胞にプトレッシンを添加すると、無処理の細胞と同じ様な変化を示した。また、癌細胞の浸潤しているときのその周りの内皮細胞内のカルシウムイオン濃度の変化は、DFMO処理の有無に関わらず見られなかった。また、ポリアミン添加による内皮細胞のカルシウムイオン濃度変化は見られなかった。DFMO処理細胞にみられた、プトレッシンによる浸潤能回復に関わるカルシウムイオン濃度の上昇の由来を9種のカルシウムイオンモジュレータを用いて検討した結果、リアノジンを加えると、単独で浸潤能の阻害がみられた。さらに、DFMO処理系でリアノジンを共存させると、浸潤能はさらに強く阻害され、プトレッシンによる浸潤能回復とカルシウムイオン上昇は共に抑制された。以上の結果より、細胞内プトレッシンレベルにより調節される浸潤能は細胞内プール由来のカルシウムイオンの変化に依存していることが考えられる。
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