ラット胸腺を胸腺細胞と基質細胞に分画し、カテプシンEおよびカテプシンDの分布を定量的免疫沈降法によって調べた。カテプシンEは主として胸腺細胞に分布しており、カテプシンDは基質細胞に分布していた。その分子型をSDS-PAGEおよびイムノブロットにより観察したところ、カテプシンEは主として不活性な前駆体型のみが存在しており、試験管内でこの抽出酵素を酸処理することにより、成熟型酵素へと変換した。この結果はヌトロース投与で誘導したラット腹腔マクロファージのパルス-チェイス実験において、4時間程度で成熟型酵素に変換していたことと異なっていた。すなわち、ラット胸腺細胞のカテプシンEは自ら活性を発揮し得るような酸性環境には存在しておらず、特殊な状態に細胞がおかれたときのみ、酸性環境に酵素が運ばれ、活性化されることが予想された。一方カテプシンDは成熟型酵素のみが認められ、従来から他の細胞で示されたように、リソゾーム内で活性化されていると考えられる。 ラット胸腺細胞はグルココルチコイド投与によりアポプトーシスを生じ、速やかに基質細胞により消化され、結果として胸腺の萎縮を生じることが知られている。ラットにデキサメタゾンを投与し、in vivoでアポプトーシスを起こしたときカテプシンEの成熟型酵素への変換が認められた。ところが胸腺細胞単独の培養中に、デキサメタゾンを培地に添加してin vitroでアポプトーシスを起こしても、カテプシンEの成熟型酵素への変換は観察されなかった。この結果はアポプトーシスを生じた胸腺細胞のカテプシンEが、基質細胞との相互作用の下で活性化されることを示している。活性化したカテプシンEは胸腺細胞の自己消化を助ける働きをしていると推察される。 以上のようにカテプシンEは、ラット胸腺細胞において平素は前駆体型で存在しており、アポプトーシスを基質細胞共存下に起こしたときに活性化されるという、複雑な機構によって活性を制御されていることが明らかとなった。胸腺細胞と基質細胞間で伝達されるカテプシンEの活性化のためのシグナルがどのようなものであるのかを明らかにすることが、カテプシンEの活性化機構を明らかにするための次のステップになると考えている。
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