これまでin vitro浸潤モデルを用いて口腔癌の浸潤増殖機構に与える線維芽細胞の影響について解析を行い、線維芽細胞の産生する液性因子が口腔癌の細胞遊走を強く促進することを見いだした。本研究では線維芽細胞培養上清より癌細胞の遊走を促進する因子の分離しその作用機序の解析を行った。線維芽細胞の培養上清を限外濾過にて濃縮後、FPLCシステムを用いてSuperdex 200pgカラムに展開・溶出させた。その結果、50〜70kDaの画分に口腔癌細胞遊走促進活性が認められた。さらに同画分をヘパリン親和性カラム、Mono Qカラム等を用いて精製を進めたところ、熱及び還元に比較的安定な約50kDaの蛋白が分離された。同蛋白の遊走活性は抗β1インテグリン抗体やGRGDS及びYIGSRによって影響を受けないことから細胞外基質蛋白とは区別され、精製過程や生化学的性質より既知の成長因子とは異なる新しい蛋白であることが示唆された。同蛋白は口腔癌細胞のストレスファイバーの形成を抑制し、細胞膜のラッフリング引き起こすことがわかった。さらに本蛋白の遊走活性はチロシンキナーゼ阻害物質のゲニステインで強く抑制されることより、その作用発現にチロシンキナーゼによる細胞蛋白のリン酸化の関与が推測された。また、本蛋白は百日咳毒素によってその活性が阻害された。以上の結果より、線維芽細胞の産生するがん細胞遊走促進因子はGi蛋白共役受容体を介してチロシンキナーゼを活性化し細胞骨格系を制御して細胞の運動能を亢進させていると考えられた。
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