1.癌細胞の悪性度とトリプシン分泌 トリプシンの分泌と癌の悪性度との相関性を調べるため、トリプシンを多量に分泌しているヒト・スキルス胃癌細胞株であるSTKM-1株よりトリプシン分泌能の異なる2つのサブクローン(S4、R3)を樹立して検討した。両細胞をヌードマウス(Balbc nu/nu)の腹腔に投与したときの、宿主の50%生存日数は、S4細胞で50日、R3細胞で82日であった。S4細胞におけるトリプシノーゲン合成は、血清による阻害作用を受けにくかったが、R3細胞では血清による阻害作用を強く受けていた。活性型トリプシンは、S4細胞の培養上清中にのみ見い出された。以上の結果から、STKM-1細胞の浸潤にはトリプシンの分泌が重要であり、その悪性度違いは、血清成分に対する感受性に起因していることが示唆された。 2.顎下腺によるゼラチナーゼの分泌 ラット顎下腺は、離乳期後、およそ22-24日齢で、ターミナルチューブルセルの消失など劇的な変化を経て成熟する。一方、顎下腺はカリクレイン関連酵素を多量に含んでいることが知られている。本研究では、カリクレイン関連酵素の加齢変化と、顎下腺の成熟過程への金属酵素の関与について検討を行った。F344オスラットの顎下腺を22日齢より70日齢まで2-3日毎に摘出して、細切した後2日間無血清培養し、分泌された酵素活性を分析した。22-28日齢においてCls(88-kDa)、プロゼラチナーゼA(64-kDa)、ゼラチナーゼA(57-kDa)活性が検出された。また、カリクレインおよびその関連酵素は、28-kDa活性が38日齢より、60-、32-、29-kDa活性が52日齢より顕著に増加した。以上のことから、ゼラチナーゼAは、Cls様酵素とともに顎下腺の成熟化に関与していることが示唆された。
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