研究概要 |
非進行性の歯根部齲蝕病巣の超微構造ならびに侵入細菌の局所性を明らかにすることは、その感染歯質を除去する際の診断基準に科学的根拠を与え得るものと考えられる。しかしながら、非進行性の歯根部齲蝕に関する細菌学的および形態学的研究は非常に少ないのが現状である。そこで、非進行性の歯根部齲蝕を有するヒト生活歯を水溶性樹脂(GMA)に包埋し、これより得られた超薄切片にS.mutansをはじめ種々の齲蝕関連細菌に対するウサギ特異抗体を一次抗体とした免疫電顕染色を施し、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した。また一部の試料は、未脱灰のままTEMあるいは走査型電子顕微鏡(SEM)用試料として処理し、非進行性の歯根部齲蝕病巣の超微構造を観察した。その結果、非進行性の歯根部齲蝕病巣において侵入細菌の増殖あるいはそれに伴う歯質破壊が活発になされていないことを示す以下の所見を得た。1.齲蝕表層の象牙細管の多くは管周象牙質が存在したままであり、また内腔に微細顆粒状あるいは立方形の結晶を含んだ管状構造物や充実性の石灰化様構造物を有していた。2.齲蝕病巣には様々な深度で細菌侵入が認められたが概して桿菌あるいは球桿菌が多く、また細菌侵入に伴う象牙細管の拡張は齲蝕表層のごく一部で観察されるのみであった。3.齲蝕病巣の象牙細管に最も深く侵入したと思われる桿菌には微小結晶の沈着がわずかにみられ、その直下の細管には同様の微小結晶の沈着や膜様あるいは線維性の構造物が観察された。4.齲蝕病巣単最深部の細菌種を免疫電顕染色により検索したところ、Actinomyces属やLactobacillus属が検出された。 今後は、病巣最深部で検出された侵入細菌種と、細菌侵入の防御反応として細管内に存在する免疫成分(IgG,IgA等の免疫グロブリン)の超微局在の関連性を検索していく予定である。
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