研究概要 |
歯周炎の進行に伴う歯槽骨の吸収は,疾患の進行度や病態により様々な骨吸収形態を示す。本研究では,歯周炎の進行形態と顎提の解剖学的特徴との関係を研究する一環として,歯周治療実施後の予後に及ぼす影響を中心に検討を加えた。日本大学松戸歯学部附属歯科病院に来院中の患者の内,全身疾患を有さず成人性歯周炎に罹患した者28名(男8名,女20名,年齢35〜66歳)を研究対象とした。研究1として,初診時の顎提の解剖学的特徴と歯周疾患の進行との関係を調査した。松江らの方法に順じ,下顎第1大臼歯の頬舌的歯冠幅径と顎提の幅径の比率からその関係が1:1.2のものをII型,これを超えるものをIII型に分類した。その結果,II型の群16名,III型12名であった。歯周疾患の進行状態を比較すると,平均ポケット値と4mm以上のポケットの比率がIII型よりII型において高い傾向を示したが,両群の間に有意差は認められなかった。また,歯槽骨の吸収状態はIII型で斜状吸収の出現する頻度が高い傾向が認められた。研究2として,歯周初期治療終了後の治療効果について上記2群の差を検討した。平均ポケット値,4mm以上のポケットの比率ともにIII型よりII型において治療効果の高い傾向が認められた。各部位においては,頬側ではII型,III型の差が少ないのに対し,口蓋側においてII型のポケットの減少が顕著であった。歯槽骨の吸収状態は,初診時に比較して初期治療後で変化は認められなかった。以上より,頬舌的な歯冠幅径に対し顎提の幅の広いIII型の症例は,II型に比べ初期治療の効果が現れにくいこと,その差は主として口蓋側のポケットの変化によることが示唆された。しかしながら,歯槽骨吸収に関する変化は,歯周初期治療の直後では現れにくく,長期に渡る継続研究,ならびに歯周外科処置後の変化を検討する必要があると考えられる。
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