研究概要 |
我々は,ヒト悪性腫瘍における原発巣と転移巣の各癌遺伝子の変化とその関連性を検討をしてきた。この結果,胃癌,乳癌などの腺癌では,ERBB,ERBB2などの癌遺伝子の増幅がみられ,食道癌などの扁平上皮癌ではINT2遺伝子を含む染色体11q13の部位の増幅が高頻度に認められた。これら遺伝子の増幅は,原発巣よりも転移巣に高頻度に認められたことより,癌遺伝子の変化が癌の増殖伸展や転移に関与していることが強く示唆された。今回,さらにホルマリン固定パラフィン包埋材料を含めた頭頸部癌24例の原発腫瘍と転移巣14例からDNAを抽出し,サザンブロット法やドットブロット法により癌遺伝子の変化を検索した。検索材料は,上顎洞癌の原発巣5例と転移巣6例,咽頭・喉頭癌の原発巣10例,また口腔癌の原発巣9例と転移巣8例である。これら各病巣組織のDNAを抽出し,INT2,ERBB,ERBB2,MYC,LMYC,PgR,β-actinの各遺伝子の変化について検討した。上顎洞癌と咽頭・喉頭癌には,今回検索した遺伝子に変化はみられなかった。口腔癌では,原発巣の9例中2例(22.2%)に,転移巣では8病巣中4病巣(50.0%)にINT2遺伝子が増幅していたが口腔癌でも,他の遺伝子には変化はなかった。INT2遺伝子の存在する染色体11q13領域は,扁平上皮癌,特に食道癌で高頻度に増幅していることが,既に報告されている。今後,これら遺伝子の変化から悪性腫瘍の増殖伸展や転移の関係をさらに考究する予定である。
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